第006話 冥界(めいかい)

ルーメン・テネブライ006話挿絵

第一章 この先の行動


 キャリア・フロント・バック達は、幽界(ゆうかい)第二階層の強者の一つ、幻霊族の女王、カオロを下した。
 女王カオロはひょんな事から行動を共にすることになった謎の男、ピリオド・エンドが得意とする【プリズン・カード】の囚人という事になった。
 幻霊族は倒したが、ここはまだ、第二階層宇宙空間の途中だ。
 次の第三階層に行くには彼女達の足では数ヶ月はかかる。
 第二階層の中央にある巨大ブラックホールまではそれだけ距離があるという事だ。
 だが、彼女達の行動に待ったがかかる。
 この先をどうするかという問題になったのだ。
 ピリオドが持ってきた宇宙船――正確には幻霊族から奪った宇宙船だが、これを使えば、比較的、早い段階で第二階層の中央まで進む事が出来る。
 超光速で動くため、目的の座標をインプットすれば、後は眠っていても一晩もあればつくだろう。
 だが、この宇宙船の所有者は一応、ピリオドだ。
 彼が進みたいのは第三階層以降ではない。
 彼のルーツ、【古都蘭丸(ことらんまる)】とは別のもう一つのルーツ、【古都薔薇(ことばら)】の子孫を探すという目的があるのだ。
 それは恐らく、奥の階層にはない。
 彼が持ってきた封凶岩(ふうきょうがん)をキャリアのオレンジの光体で少し調べたらどうやら、幽界の外に縁が伸びていると出たのだ。
 つまり、彼の宇宙船を使いたかったら、彼と行動を共にし、幽界から出て行かなければならないのだ。
 キャリア達は今まで幽界の表層階層と第一階層の宇宙空間での戦いを頑張ってなんとか第二階層にまでやってきた。
 だが、ピリオドと行動を共にするという事はそれを逆戻りして、幽界から出なくてはならないのだ。
 キャリア達はとりあえず、第十階層を目指していたが、本当にそこに行きたい訳では無い。
 最強の化獣(ばけもの)、クアンスティータを避けて安住の地を見つけたいというのが本当の願いであって、そこでは無いのだ。
 だから、ピリオドの目的に付き合うというのも考慮の一つとして考えていた。
 行くか戻るか――
 その決断をする時が来たのだ。
 ピリオドは逆に幽界の外に出ようとしている。
 キャリア達は今まで幽界の奥に進もうとしていた。
 つまり真逆の方向だ。
 ピリオドと別行動を取るのであれば当然、宇宙船は使えない。
 また、何ヶ月もかけて宇宙の中心に向かって行くことになる。
 ピリオドと行動を共にしたら、進むのは早い。
 だが、外に出る方向で進む事になる。
 キャリア達は外に出る方向――ピリオドと行動を共にする道を選択した。


第二章 冥界へ


 ピリオドは、
「本当に良いのかい?私の目的に付き合うって事で?」
 と言った。
 キャリア達は頷く。
 それで良いという意思表示だ。
 キャリア達はあれこれ画策しても信頼関係はなかなか築けないと判断し、思い切って腹を割って話すことにした。
 ピリオドの話を少し聞いてしまったこと。
 自分達はクアンスティータという途轍もなさ過ぎると言ってもまだ足りないような化獣(ばけもの)から逃げてこの幽界に来ていた事。
 自分達が幽界から歓迎されていないという事。
 自分達が置かれている状況などを出来るだけ話した。
 ピリオドの方は少々面食らっていた。
 まさか、ここまで正直に言われるとは思っていなかったのだ。
 怪しい態度を取ってきたピリオドをここまで信用するという事を示されたのだ。
 警戒されているのは知っていたのでキャリア達が自分達の事情をさらけ出して来るとは夢にも思っていなかったのだ。
 ここまでされたからには、ピリオドとしては多少は答えねばならない。
 ピリオドも自分の生い立ちについて少し話した。
 もちろん、全てではない。
 だが、キャリア達に答えるだけの答えは用意したつもりだった。
 どこまでを信用してどこからを疑うか――
 それはお互い、追々、見極めて行くとして、とりあえず行動を共にするという事で意見を一致させたのだ。
 ピリオドが【古都百合】の娘、【古都薔薇】の子孫を探っているという事なので、キャリアは自身のオレンジの光体で封凶岩を調べ、その血筋が、幽界の外に続いているという事をピリオドに話した。
 そして、ピリオドの乗ってきた宇宙船で、幽界の入り口である表層階層まで一気に来たのだ。
 超光速で動ける宇宙船なので、ピリオドと話してから2日ちょっとで表層階層まで出たのだ。
 超光速で動いていたので怪妖達の邪魔も入らなかった。
 今までの移動時間を考えたらあっという間に幽界の表層階層まで戻ってこれた。
 表層階層までこれたので、後はどの宇宙世界に出るかが問題となる。
 ピリオドは、
「キャリアさん。この先はどこへ続いているんでしょうかね?」
 とキャリアに尋ねた。
 キャリアは、
「わからないけど、先の縁も魔の気配がするから、恐らくは魔界か冥界のどちらかだと思うわ……後は行ってみないと……」
 と答えた。
「ですかね、やっぱり……では道案内頼みますよ。私は運転に集中しますので」
「わかったわ。あ、そっち右手の方向に30度くらいかな」
「了解です」
「ちょっとずれた、左手の方向に1度、上方向に2度お願い」
「わかりました」
「ちょっと待って……そこ、そこをもう少し……」
 等とやりとりがあった。
 しばらく微調整があったが、やがて視界が晴れてくる。
 ここは、もう、幽界ではない。
 ではどこだ?
 キャリアが早速、オレンジの光体でたどり着いた宇宙世界を探る。
「う、うーん……さっきまで居た幽界と作りが似ているような気がする――戻ってしまったのかしら……いえ、違うわね……幽界とはまた違った【死】のイメージがある……という事は恐らくは冥界かしら?」
 キャリアが冥界と予想する。
 彼女の予想は的中していた。
 彼女達が訪れたのは幽界と双子の関係になっている宇宙世界、冥界だった。
 冥界もまた、幽界と同じく表層階層の宇宙空間があり、宇宙空間の中央まで進むと巨大なブラックホールがある。
 そのブラックホールの中を通って次の階層に進む。
 表層階層の次は第一階層があり、やはり、第十階層まで伸びている。
 階層構造が似ているので、双子宇宙世界と呼ばれているのだ。
 また、幽界が幽体や精神エネルギーなどの需要が多いのに対して、この冥界は死体の世界と呼ばれている。
 現界など他の宇宙世界で、死亡し、遺体となった強者が冥界に運ばれて来るという事も決して珍しい事ではなかった。
 まるで死体安置所――死体が動く事が多いので安置とは言えないかも知れないがそれに近いイメージの宇宙世界と呼べた。
 キャリア達の新たなる冒険が始まろうとしていた。


第三章 引きこもり


 キャリア達はまず、落ち着くために適当な星を探した。
 どこへ向かうにしてもまずは、具体的にどのような行動を取るかを決めなくてはならない。
 前に話した時はまだ、冥界に来ていないし、次の目的の地が冥界だとは思って居なかった。
 冥界にたどり着いた時点の今、何をすべきか相談するべきと判断したのだ。
 キャリア達は比較的、安定してそうな星を選択、そこに降りる事にした。
 宇宙船をその星に向ける。
 キャリア達が降りた星は空気も水もある。
 という事は生命体が居てもおかしくない星と言えた。
 あたりを見回す。
 見ると、現界や幽界では見たことの無い生き物(?)がいくつかチョロチョロと動き回っているのが見えた。
 ちょっとグロテスク――そんな印象の生き物ばかりだった。
 見たところ害はなさそうなので放っておく事にして、腰を下ろし、これからの相談を始める。
 簡単な火をおこし、その周りを囲うようにキャリア、キャトラ、フォール、ピリオドが座る。
 ジャンルとマドゥワスはキャリアのイヤリングとなっているはずだった。
 だが、キャリアも気づいていなかった。
 二人が彼女のイヤリングとなっていないことを。
 人知れず、行方不明になっていたという事をだ。
 では、ジャンルとマドゥワスはどこに消えたのか?
 マドゥワスは異空間に引きずりこまれていた。
 命がつながっているジャンルだけがそれに気づき、追ってこれたのだ。
 マドゥワスは、
「どこ?ここは……」
 と言った。
 ジャンルは、
「わからん。だが、どうやら、俺たちだけのようだ、引きずり込まれたのは……」
 と答えた。
 その答えに反応してか、声がする。
「招いたのは女の方だけなんだけどね、どうやってこれたのか気になるな」
 と。
 どうやら、マドゥワスをこの異空間に引きずり込んだ者のようだ。
 ジャンルは、
「誰だ?出てこい」
 と威嚇する。
 すると、遠方に影が一つ見えた。
 その影は、
「初めまして。僕はいわゆる【引きこもり】と呼ばれる存在さ。名前は無いんだけど、今決めても良いかな。そうだな……とりあえず、神を超える者ゴッドマスターとでも名乗っておこうかな」
 と言った。
 ジャンルは、
「ゴッドマスターとはずいぶんとご大層な名前だな。ところでその名前に釣り合う男なのか貴様は?」
 と返す。
 ゴッドマスターは、
「ここでは、僕が神以上の存在さ。ここには僕が招いた存在しかこれないし、僕がここのルールそのものさ」
 と言った。
「俺が来たじゃないか」
「そう、それなんだよね。僕が招いたその女以外これるはずがないのに、あんたはここへ来た。どんな手品なんだい?」
「易々と話すと思うか?」
「だろうね。だから、こっちも警戒させてもらっているよ。本当だったら、僕がデザインしたものをその女に披露するところだったんだけど、あんたが来たから予定を変更して、何も無い空間にしておいたんだよ。僕のお気に入りを下手に壊されちゃたまらないからね。出来たら不純物のあんたには出て行ってもらいたいんだけどね。じゃないとその女とデート出来ないじゃ無いか」
「おあいにく様。私はあなたなんかに興味はないわ」
「それは関係無いよ。大事なのは僕が気に入るかどうかだからね。君の意思なんてものは一切関係ない」
「なるほど、引きこもり過ぎて、女性へのエスコートの仕方がわからないってことかしら?」
「言ったろ、問題は僕が気に入るかどうかだ」
「よせ、マドゥワス、どうやら話が通じる相手じゃないようだ」
「そのようね」
 会話を断ち切り臨戦態勢を整えるジャンルとマドゥワス。
 ゴッドマスターは
「そいつはお互い様だ。僕が命令しているのに聞けないなんて、なんて悪い子だ。お仕置きが必要だな」
 とあっちも身構える。
 キャリアであれば、オレンジの光体で敵を探れるが、今は連絡が途切れている。
 どうやら、キャリアとは感覚は共有出来てもここでは別の存在として引きはがされているようだ。
 ほとんど同種の存在であるジャンルとマドゥワスが同一の存在として認識されて、この異空間に引きずりこまれたようだ。
 それから推測するに、【ひきこもり】と呼ばれる存在は本来たった1名に対して、その効果を発揮するタイプのようだ。
 対象者を他の存在と切り離して、隔離し、自分のテリトリーで戦うという存在のようだ。
 どうやら、この引き込んだ異空間の中では無敵だと主張したいようだが、ジャンルがこれたという事はその力は完璧ではない。
 ジャンルが居たことで自分のテリトリーを変更するような臆病な一面も見せている。
 よく見れば穴だらけのような相手と言える。
 少し前に戦闘した幻霊族の方がまだ強敵だったと言える。
 この件は母、キャリア達の手を借りるまでもない、自分達で解決すべき敵だ。
 この程度の相手に負けるようではキャリア達の戦力を名乗る資格は無いと二人は判断した。
 ジャンルは、
「行くぞ、マドゥワス」
 と言った。
 マドゥワスは、
「えぇ、ジャンル」
 と答えた。
 息はぴったり。
 二人の攻撃が始まった。
 対するゴッドマスターは煙幕のようなものを出し、一度距離を取る。
 安全地帯から遠隔で攻撃する手段をとるようだ。
 戦う前から何となくわかる。
 こいつは小者だ。
 ちょっとばかり特殊な力を持っているだけの単なる雑魚。
 それが、ゴッドマスターという男のようだ。
 知れば知るほど、大層な名前にふさわしくない男だ。
 ゴッドマスターは距離を取り、遠方から様々なものを作りだし、それを仕向けて来る。
 だが、その全てが軽い。
 軽すぎる。
 存在に重みが無い。
 全く無い。
 かりそめの体を借りただけの単なる見世物。
 そんなものばかりだった。
 ジャンルとマドゥワスは右手に光、左手に闇のエネルギーをためて、交差し、ショートさせる。
 光と闇は水と火の様な関係を持っている。
 水と火を合わせると水蒸気が生まれるように、光と闇のエネルギーを合わせるとそこに莫大なエネルギーが生じる。
 それこそ、光だけ、闇だけでは出ないような高エネルギーが作り出せるのだ。
 反発を利用した、巨大な力――それが、ジャンルとマドゥワスが新たに身につけた戦法だった。
 母、キャリアにより、光と闇の両属性を持って生まれたジャンルとマドゥワスは二つの両極端な力が反発し合い、普段、潜在能力に対して、思ったよりもパワーが出ていないのが悩みでもあった。
 だが、二つの力をショートさせる事で生まれる大きな力に気づいた時、二人は大きく成長したのだ。
 ちょうど、使いこなせなかったものがうまく使えた時の感覚を得たのは幻霊族との戦いの後だった。
 ジャンルとマドゥワス――男と女――マドゥワスを逃がすために一度、ジャンルは彼女を幻霊族のエリアから突き飛ばした。
 その時に感じていた僅かなヒントをこの異空間に連れてこられた今昇華させ、力としたのだ。
 大きなスキルアップを果たした二人に対してゴッドマスターの力は余りにも貧弱だった。
 ゴッドマスターはそれまでの強気が嘘の様に
「ひぃ〜もうしません。もうしません」
 と謝り倒した。
 ジャンルとマドゥワスは始末するような相手ではないと思ったのか、彼を許した。
 聞けば、【引きこもり】と呼ばれる存在は、冥界を中心にして、多数存在していて、その中でもゴッドマスターは小者に過ぎないという。
 本物の引きこもりに捕まっていたら、いくらジャンルとマドゥワスでも苦戦は必死だったかも知れない。
 今回はたいした事が無い相手で助かったというところだった。
 それにしても――
「ゴッドマスターはふさわしくないから変更しなさい」
 とマドゥワスは言った。
 ジャンルは、
「かくれん坊が良いんじゃ無いか?」
 と言った。
 ゴッドマスターは、
「そ、そんなぁ〜」
 としょぼくれた顔を見せる。
 マドゥワスは、
「嘘嘘、ゴッドマスターで良いわよ。だけど、何かあったら協力してもらうことがあるかも知れないからよろしくね」
 と言った。
 ジャンルもマドゥワスも幻霊族戦の時の様な自身のふがいなさを感じた表情はもうない。
 自信に満ちた表情になっていた。
 また、一つ強くなったという自信が二人にその表情をさせているのだった。
 ゴッドマスターにより、二人は元の冥界の星に戻される。
 キランとイヤリングが光ったような気がしたので、キャリアは、
「どうかした?」
 と戻って来たばかりの二人に聞いた。
 マドゥワスは、
「何でもないです。でも、ちょっと強くなりましたよ」
 と言い、ジャンルも
「ずいぶん強くなったの間違いだよ」
 と言った。
 それを聞いたキャリアは、
「?」
 首をかしげた。
 だが、親が全部の事を知ることは出来ない。
 はっきりしているのは親の知らない内に子供もまた成長しているという事だ。


第四章 冥界表層階層宇宙の強者


 相談が終わったキャリア達にジャンルとマドゥワスは【ひきこもり】のゴッドマスターを紹介する。
 キャリア達はいつの間に知り合ったんだと首をかしげたが、マドゥワスは、
「内緒です」
 と言った。
 ジャンルもそれに合わせて口をつぐむ。
 まるでいたずらっ子の様な表情だ。
 人間っぽい表情を見せる二人を見てなんだが暖かい気持ちに包まれるキャリア。
 親になるという事はこういう気持ちもあるんだと実感した感じだった。
 今までずっと一人で戦って来た自分が家族を持てた事がこんなにもうれしいことだとは思っていなかった。
 ゴッドマスターは一応、冥界の住民という事なので、まずは、この冥界表層階層の宇宙空間の強者について尋ねた。
 どのような勢力に注意した方が良いのか、情報として知っておきたかったからだ。
 ゴッドマスターの情報によると、この表層階層で最も注意した方が良いのはゾンビ、いわゆるリビングデッドだった。
 表層階層には他の宇宙世界で死亡した強者達の遺体が運ばれて来ることが多く、その遺体は、生前居た世界での無念を抱えて居ることも多く、冥界独特の【死動物質(しどうぶっしつ)】と反応してリビングデッドとして、動き出すという。
 だが、生の世界に対する恐怖がついていて、元居た世界に戻るという事をしようとはせず、ほとんどのリビングデッドはこの冥界の表層階層と第一階層から第四階層あたりをうろついていることが多いという。
 稀(まれ)にそれ以外にも行くことがあるが、表層階層と第一階層から第四階層までは【死動物質】が濃く分布されており、そこから離れる事は力が減少する事を意味するためにあまり、出て行かないとの事だ。
 リビングデッド達はこの5階層で覇権を目指してうごめくという。
 力の強いリビングデッドは第四階層に居るらしく、それは【死動物質】の量が豊富にあるためで、表層階層に近づくに従って、その濃度は薄くなっていくという。
 なので、表層階層は一番力の弱い、リビングデッドが居るという事になるのだが、それでも、それらのリビングデッドに対抗出来る様な目立った存在が居ないため、表層階層はリビングデッドが幅をきかせているという。
 なんだか少々物足りない気がするが、痩せても枯れても、そのリビングデッドは元の宇宙世界では名をはせて来た存在であるはずなので、それなりの実力もあるという事だ。
 リビングデッドになるかどうかは死亡しても遺体があるかどうかの問題で、消滅してしまった場合はリビングデッドにはならない。
 むしろ、幽界の方に運ばれ、霊として活動することもあるという。
 遺体がある無しで冥界か幽界に運ばれるかが決まるという事だ。
 幽界に居ても知らなかった情報が、ここで聞けた事になる。
 なんとも情けない戦いをしたが情報源としては、ゴッドマスターは結構、役に立っていると言える。
 注意すべきはリビングデッド――それがわかっただけで十分だった。
 表層階層の事も大まかにわかったので、キャリア達は先を急ぐ事にした。
 キャリアのオレンジの光体でざっと調べたところ、表層階層には【古都薔薇】の血脈は感じられない。
 第一階層より奥の階層まで続いている可能性が読めた。
 だとすれば、この表層階層に要は無い。
 超光速で動ける宇宙船で、とっとと表層階層の中央にある巨大ブラックホールを目指して進んだ方が吉と判断した。
 一同は、宇宙船に乗り込み、先を急いだ。
 まず目指すは、表層階層中央の巨大ブラックホールだ。
 何事も無ければ良かったのだが、そう簡単にはいかなかった。
 巨大ブラックホールの前でリビングデッドによる戦いが起きていた。
 横を通り抜けて行けば良いのかも知れないが、ピリオドとしては【古都百合】の封凶岩を運んでいる宇宙船を壊したくない。
 リビングデッド達にどいてもらうかしないと危なくて、巨大ブラックホールの中には進めない。
 それだけ、リビングデッド同士の戦いは激化していた。
 ピリオドは、
「迷惑な連中だな……戦うならよそでやってほしいものだ」
 と愚痴った。
 キャトラは、
「戦いが終わるまで待つニャン?」
 と聞いた。
 フォールは、
「そんな悠長な事も言ってられん。戦っているのがリビングデッドである以上、いつ、戦闘が終了するかもわからん。待っていたらいつまでかかるかわかったものじゃない」
 と答えた。
 ピリオドは、
「それには同感だな。どかすか何かした方が良さそうだ」
 と言い、キャリアは、
「まず、状況を把握するわね。ちょっと待ってて」
 と言ってオレンジの光体を大きくして、状況を探る。
 いくらオレンジの光体でも全てがわかるという訳では無い。
 だが、リビングデッドには強い思念が残っている。
 体を突き動かす動力源とも言える強い思念こそが相手を探るための重要なヒントとなる。
 幽界でもそうだが、強い思念があれば、ルーツなども探る事が出来るのだ。
 そういう意味ではリビングデッドは都合の良い相手と言えた。
 幽界ではゴーストなどである。
 そのため、最強の悪霊と呼ばれている【古都百合】のルーツも追えるのだ。
 キャリアの探査によると、巨大ブラックホールで戦っているのは、十数体のリビングデッドのようだ。
 それらのリビングデッドは生前、一度は覇権をおさめたらしい。
 それ故にプライドも高く、自分達が最弱とされるこの表層部でくすぶっている事に納得していないようだ。
 自分はもっと上の階層に居るべき存在だと主張し、次の第一階層宇宙空間につながっているこの巨大ブラックホール前に来たが、他にも同じ考えで来ているリビングデッドが十数体居て、それで、道を譲れなどのつまらない理由からバトルに発展したようだ。
 だが、キャリアから言わせればどいつもこいつもたいした事ない連中ばかりだと言える。
 生前はおやまの大将だったかもしれないがリビングデッドになった今では個性の無い十把一絡げの一つに過ぎない。
 どうせ、第一階層に行っても大した芽は出ないだろうと予想出来た。
 何より、今のキャリア達にとっては単なる通行の邪魔者に過ぎない。
 こういう連中にどいてと言っても引かないだろう。
 どかぬと言うのならどかすまで。
 キャリア達の考えはそうだった。
 キャリア達は戦闘準備に入る。
 だが、戦闘にはならなかった。
 巨大ブラックホール前で邪魔をしていた自称強者達はより強い存在――封凶岩の【古都百合】の呪力を感じ、勝手に退散したのだ。
 退散した連中と【古都百合】とでは所詮、役者が違うというような状況だった。
 戦う事なく済んだのは良いことだが、肩すかしを食らったような気分だった。
 こうして、主立った激しい戦闘も無く、無事に冥界の表層階層を突破するのだった。
 巨大ブラックホールに入り、次は第一階層の宇宙空間だ。


第五章 怪しい男の子


 キャリア達の超光速宇宙船は冥界の第一階層の宇宙空間に突入した。
 幽界と双子の宇宙世界である冥界もそれと同様に大きいはず。
 キャリア達が幽界の表層階層でかかった時間を考えればほぼ素通りに近かった。
 それだけ、超光速宇宙船での移動は重宝していると言える。
 キャリア達は一旦、落ち着く場所をと思い、適当な星を見つけて着陸した。
 その上でオレンジの光体を出し、あたりを探る。
 すると強い反応が近くにあると出た。
 強者のリビングデッドか何かか?
 いや、違う。
 別の反応だった。
 何となく違和感のあるような反応だった。
 警戒心を強める。
 何かが近くにいるからだ。
 だが、何だ、この異様な気配は?
 わからない。
 全くわからない。
 これは冥界独特の反応なのだろうか?
 異様な気配は少しずつ近づいて来る。
 反応から見るとまるで子供の歩幅で歩いているかのようにゆっくりとだ。
 じっと待つ。
 そして、ようやくその気配の主が遠方にうっすらと見える。
 子供のようなではなかった。
 子供そのものだった。
 顔は青いが、見た目は普通の人間の子供の様に見える存在がとことこと歩いてくる。
 だが、怪しさは際立っていた。
 この星の環境から考えて、ただの子供が生きていける訳がない。
 それくらいの環境の星だったからだ。
 生きてここを普通に歩いているという事はただの子供では無いと言う事を物語っている。
 子供はキャリア達の前まで歩き、声をかける。
「お姉ちゃん達、旅の人?」
 と。
 話しかけてきているあたりを見ると戦意はないように見える。
 だが、油断は出来ない。
 油断した隙にズブッと刺されたりする事だって考えられる。
 ピリオドは、
「見たところ男の子供のようだな。興味は無いな。悪いが、私達は先を急いでいるんでな。帰ってもらえるかな?」
 と言った。
 子供相手に容赦の無い言葉だ。
 子供でも男には興味無いようだ。
 キャトラは、
「そんな事言わないでニャン。迷子になったのかもニャン。話を聞いて見るニャン」
 と言った。
 キャリアは、
「悪いけど、私の光体が君を用心するようにと出ているの。どういうことか説明してくれるかな?」
 と言った。
 彼女のオレンジの光体は目の前の子供を危険指定している。
 子供は、
「なぁんだ。バレてたの?この姿で居るとね。たまぁに馬鹿な獲物が引っかかるんだけどねぇ」
 と言った。
 と、同時に子供の皮が割け、中からどこに入っていたんだと思える位の大きな巨体が顔を出す。
 現界で言うところの【鬼】にイメージが近かった。
 ただし、頭から生えているのは角ではない。
 コインに近い形状の何かだった。
 それ以外は筋肉質な体つきと言い、鬼と言っても遜色なかった。
 頭のコインが何を意味するものかはよくわからない。
 だが、理解する必要はない。
 とっととけりをつけて、ここを離れれば良い。
 そう判断したフォールが一閃――
 子供だった【鬼】の様な何かを切りつけた。
 瞬殺――そう思ったが、違った。
 鬼の様な肉体は朽ち果てたが、その体から落ちたコインが大地のエネルギーを吸って、新たなる肉体を作り出したのだ。
 どうやらあのコインが本体――それ以外は借り物のようだ。
 ならば、コインを切るまでだと、フォールは一気に間合いを詰めてコインを切りつける。
 ギャリィンンン……
 という音がするが、切れない。
 恐ろしく堅い物質で出来ているようだ。
 鬼の様な存在は、
「ひどいなぁ……殺されちゃうかと思ったよ」
 と言った。
 どうやら、コインを壊せば倒せるというのは間違った考えでは無いようだ。
 フォールは、
「俺はフォール、貴様は何者だ」
 と言った。
 最初は素通りするつもりだったが、すんなり通してくれるような相手ではないようなので、名乗る事にしたのだ。
 鬼の様な存在は、
「僕の名前は、【れいあ】、種族は一応、硬貨族(こうかぞく)って事になるねぇ。お兄ちゃん達みたいな侵入者を狩るのがお仕事さ。こんな僕でも一応、隊長をやらせてもらっているよ」
 と言うと、懐から十数枚のコインを取り出した。
 それをばらまくと地面からエネルギーを吸って、鬼の様な怪物が複数名現れる。
 恐らく、【れいあ】の部下なのだろう。
 フォールの土刀でも切れないとなると防御力はかなりのものになる。
 まともにやり合えば苦戦必至の相手と言えるだろう。
 キャリア達は戦闘準備を整えた。
 キャトラは、
「あちしに任せるニャン。新技で一気にけりをつけるニャン」
 と言った。
 ちょっと心配だったが、本人がやる気だったので、彼女に任せる事にした。
 キャリアは、
「猫に小判――じゃなくてコインか……」
 とつい気になった事を言った。
 彼女の出身である地球のことわざだ。
 キャトラは猫神なので、つい思いついたのだ。
 そういうくだらない事を考えるだけの余裕があった。
 彼女のオレンジの光体がキャトラの新技であれば大丈夫だと判断したのだ。
 だから、信じて彼女の動向をうかがう事にした。
 キャトラは、
「うーん、うーん……」
 とまるで何かを踏ん張っているような声を上げる。
 すると、彼女の尻尾から、玉の様なものが複数出てきた。
「ウニャン、ウニャン」
 と猫の習性か、自ら出した玉で遊び始めるキャトラ。
 【れいあ】は、
「なんのじゃれあいだい?」
 とあきれ顔だった。
 だが、彼は気づいていなかった。
 最初に出した玉の数から知らず知らずの内に数が減っているという事に。
 気づけば、【れいあ】の部下達は、残らずキャトラが出して消えたはずの玉の中に吸い込まれていた。
 キャトラは、
「うにゃん、うにゃん、うにゃん」
 とさらに玉でじゃれている。
 玉の中には【れいあ】の部下達が。
 部下達の体が玉の中でまず溶けて、更に本体のコインも次第に溶けていった。
 今度は、【れいあ】が驚く番だ。
 キャトラもまた成長し、強力な戦力となっていたのだ。
 たかだか、第一階層の強者程度に遅れを取るような彼女ではなかった。
 追い詰められた【れいあ】は再び子供の仮面をかぶる。
「ごめんなさい、ごめんなさい。冗談だったんです」
 とわびを入れる。
 だが、このわびは本心ではない。
 油断したところを再び襲うつもりだ。
 そんな事はキャリア達も先刻承知。
 もうだまされない。
 だまされたふりをして、油断とみせかけたところ、【れいあ】は再度、鬼のような肉体を持って襲いかかる。
 そこへフォールが、
「形だけでも詫びたままで居れば助かったものを……」
 と言って、土刀で切りつけた。
 今度はコインを真っ二つにした。
 今度の居合いは普段の数倍の気を送り込んで放ったのだ。
 切れ味が遙かに増した居合いで、切りつけたのだ。
 刺客、【れいあ】一派は撃破された。
 なかなかの強敵であったが、多くの戦いを経て来ているキャリア達の敵ではなかった。
 絡む相手を間違えたというところだろう。


第六章 第一階層の覇者


 キャリア達はその後も主に、強者のリビングデッドを中心とした刺客に襲われる事が多かった。
 それらの状況から考えて、明らかに誰かが、刺客を送っているという事が考えられた。
 幽界の第一階層と照らし合わせて考えて見る。
 幽界の第一階層には12匹の怪妖と呼ばれる存在一強の階層だった。
 同じように冥界の第一階層も一強の宇宙空間と呼べた。
 その一強にあたるのが、12匹の怪物達だった。
 だが、今は違う。
 キャリア達が幽界に来た時に怪妖を何匹か倒したように、冥界もまた、侵入者達により、覇権を奪われたのだ。
 キャリア達は怪妖を全滅させた訳では無かったが、冥界への侵入者達は全て討ち取ったのだ。
 12匹の怪物達に代わって覇権を納めたのが、3名のリビングデッドだった。
 今はその3名のリビングデッド達がこの第一階層の宇宙空間を治めていた。
 その3名は他の存在から奪って覇権をつかんだ者達である。
 当然、自分達もまた、新たな存在に取って代わられるという事を恐れた。
 そのため、配下となった者達を使い、目立った侵入者に刺客を差し向けていたのだ。
 キャリア達が封凶岩を運んでいるという事が目立つ要因になっていたのだ。
 封凶岩からただよう、【古都百合】の呪力はリビングデッド達を恐れさせるには十分過ぎるものだったのだ。
 3名のリビングデッドの名前は、【リーグ】と【ドン】と【セット】と言う。
 【リーグ】は生前、とある宇宙世界で最強の勇者と呼ばれた男でもあった。
 彼がいた宇宙世界はクアースリータ誕生時に消滅してしまっている。
 自称bQ達に排除されたのだ。
 【リーグ】はすでに無くなった宇宙世界で我が物顔で振る舞っていたが、いつしか【勇者】側から【倒される】側へと変わり、暗殺されたという過去を持つ。
 【ドン】は生前、とある宇宙世界で、最強の組織のボス、つまり、【ドン】だった。
 本当は別の名前があったようだが、いつしか自分の事を【ドン】と呼ばせる事に執着し、本当の名前も忘れたようだ。
 やはり、やり過ぎたため、暗殺されている。
 【ドン】の居た宇宙世界もクアースリータ誕生時に消滅している。
 【セット】は生前、とある宇宙世界で最強の怪物と呼ばれていた。
 雇われ用心棒を生業としていて、100%依頼者を守り切るという事を誇りとしていた。
 だが、やがて慢心し、油断をして刺客に殺されているという過去を持つ。
 前述の二名と同様に存在していた宇宙世界は、クアースリータ誕生時に消滅の道をたどっている。
 3名とも戻るべき故郷はすでに無いが、共通して強い上昇志向があった。
 他者を蹴落としてでも這い上がるという事で意気投合した3名は冥界の覇権をつかむために同盟を結んだのだ。
 同盟を結んだ3名は同じようにリビングデッドとして、やってきた強者達をまとめあげ、組織化させた。
 その上で、この第一階層の宇宙空間に目をつけ、瞬く間に覇権を治めたのだ。
 一度でも刃向かった者には情け容赦ない仕打ちで返す事での恐怖政治を引いた彼らに逆らう者はそのあたりには居なかった。
 こうして、3名は第一階層の覇者としてふんぞり返っているのだ。
 だが、強者としての重みは感じられない。
 封凶岩の加護もあることだし、ぶつかればキャリア達が勝利するだろう。
 3名の事はキャリア達を襲って来た刺客達から少しずつ情報を得て、大体、どのような敵なのか把握しつつあった。
 冥界の秩序とかを語るつもりも無いが、我が物顔で非道をしているものなど放っておけない。
 これ以上邪魔をするならば、ちょっと締め上げるかくらいのつもりいたが、その時襲っていた刺客達に入った情報で状況が一変した。
 刺客Aは、
「本当か?」
 と後から来た刺客Bに尋ねた。
 刺客Bは、
「本当だ。あいつら、とうとう、やられたらしい。頭がすげ代わるぞ」
 と言った。
 あいつらとは、【リーグ】と【ドン】と【セット】の事だろう。
 人望は無いだろうなとは思っていたが、刺客Aも刺客Bも仕方なく従っていたようだ。
 二名の刺客の会話を聞いているとこういうことだった。

 それは――
 覇権を治めていたリビングデッド三名は新たなる存在によって、倒されたとの事だった。
 倒した者は【錯覚者(さっかくしゃ)】と呼ばれる存在だという。
 どこかで聞いた事のある名前だ。
 そう――キャリアが幽界で戦った幻霊族の刺客として現れた【レイヤー】という者がコスプレをしていたという元の名前の存在の事だ。
 確か錯覚を起こさせる力を持っていて、本物であったならば、かなり苦戦しただろうと予想出来た相手だった。
 つまり、本物は幽界ではなく、冥界に居たという事なのだろう。
 【盛者必衰】――勢いの盛んな者もやがては衰え滅びるという言葉を思う。
 クアンスティータには全く当てはまらないだろうが、普通の存在はやがて現れる新たな強者の前に敗れ去るものだ。
 第一階層の強者を倒して奪った覇権はまた、新たなる存在に寄って奪われるという事だった。
 本物の【錯覚者】というのがどのような者かは多少気になるが、キャリア達の第一目標は【錯覚者】ではない。
 【古都薔薇】の子孫を探す事を第一に考えるべきなのだ。
 頭が変わり、襲って来なくなったというのであれば、もう要は無い。
 このまま素通りさせてもらおうという事で話がついた。
 キャリア達は超光速宇宙船に乗り込み、第一階層の中央にある巨大ブラックホールに急いだ。
 この第一階層の宇宙空間にもまた、【古都薔薇】の子孫の反応は無い。
 僅かな反応は第二階層以降にまでのびているようだ。
 キャリア達はそのまま、巨大ブラックホールに飛び込んだ。
 次は冥界の第二階層の宇宙空間だ。


第七章 古都百合の末裔


 冥界の第二階層の宇宙空間に着いたので、キャリアは早速、オレンジの光体で、周囲を探る。
 試しで、周囲の星から聞こえて来る噂話に焦点をあてて、第二階層宇宙の状態を探る事にした。
 これが完全とは言わないが、第二階層宇宙に重要な役割を持つ星をうまくキャッチできれば、ある程度の事はわかると踏んだのだ。
 幽界での第二階層は群雄割拠の時代に突入していてこれと言った飛び抜けた強者はいなかった。
 冥界でもひょっとしたら同じ状態ではないかと探りを入れたが、どうやら少し、違うようだ。
 キャリア達が来る、少し前まで、壮絶な戦いがあったようだが、今は少し、落ち着いている状態で、強者の数が極めて少ないという状態らしかった。
 第一階層の様に強者のリビングデッドが幅をきかせているのかと思ったが、違っていた。
 フラワ族と呼ばれる存在同士での壮絶な死闘があり、それに巻き込まれた形で強者のリビングデッド達も他の強者と同じように巻き込まれて無に帰したようだ。
 そんなフラワ族も残すところ後2名。
 この2名による最終決戦が終了したら平穏が来ると言われているが、今は最終決戦前の静けさと言った状態らしい。
 その話を仲間に話していた時、超光速宇宙船に積んでいる封凶岩が反応する。
「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお……」
 という声がずっと響く。
 なんだか嘆き悲しんでいるような声色に聞こえる。
 これは、【古都百合】が悲しんでいるという事なのか……
 その時、ピリオドにも変化があった。
 【古都百合】の子孫である彼には何かが見えているのか、
「なんてことだ……」
 と言って涙する。
 どうやら、【古都百合】がピリオドに何かの映像を見せているようだ。
 キャリア達にはわからない。
 キャトラは、
「どうしたニャン?何かあるニャン?」
 と聞こうとしたが、フォールに、
「よせ、そっとしておいてやれ。事情は知らんが何かあったようだ……」
 と言った。
 状況を説明しないまま、ピリオドは自分の寝室に入ってこもってしまった。
 彼が、どう動くか示さないとキャリア達は動きようが無い。
 そのまま、超光速宇宙船は立ち往生していた。
 その場を動かないまま、何日か経った。
 そして、気持ちの整理がついたのかピリオドが寝室から出てきた。
 ピリオドは、
「申し訳ない。理由も話さず、みんなには迷惑をかけた」
 と言って詫びた。
 キャリアは、
「話したくないなら無理には聞かないけど、次の行動をするにあたって何か不都合があれば、それだけでも話してもらえれば……」
 と言った。
 それを聞いたピリオドは、
「君たちは優しいな……全部は話せないが、大まかな事だけ話すよ」
 と言った。
 彼が言うには、【古都百合】により、フラワ族の悲劇が映し出されたようだ。
 時の帝の配下によって、【古都百合】の娘、【古都薔薇】は冥界へと売り飛ばされた。
 そこからが【古都薔薇】の子孫達の不幸の始まりだった。
 同族同士の戦いを強要され、見世物としての生活が待っていたのだ。
 愛し合いながらも同族同士、殺し合う事を生業とせざるを得なかった不幸。
 いや、不幸などと単純な言葉では言い表せないくらいの苦痛を【古都薔薇】の子孫達は味わってきたのだ。
 【古都薔薇】の子孫はいくつもの家系に別れて行き、その一つがフラワ族だった。
 フラワ族もまた、【古都薔薇】の子孫として、同族同士、殺し合う事を教育として受けていた。
 フラワ族の名前はフラワ〜(〜の部分に花の名前)と言い、フラワ族同士、真名(まな)を奪い合う戦いを強いられる。
 真名とはフラワ〜とは別の本当の名前で、その名前が取られるという事は完全な消滅を意味していた。
 フラワ族同士はこの真名を奪い合っていく戦いを経ていく内に戦いはエスカレートして行き、様々な強者が巻き込まれたという。
 そして、最後に最も多くのフラワ族を葬り去ったフラワ・ダリアと誰一人、フラワ族を傷つけず生き残ったフラワ・デイジーだけが残ったという。
 誰の目にもフラワ・ダリアの勝利は間違い無い――そう思われて来た。
 だが、違っていた。
 フラワ・ダリアはずっと親友のフラワ・デイジーのためだけに戦っていたのだ。
 フラワ・ダリアは同族殺しの罪にまみれている。
 その同族殺しのフラワ・ダリアをフラワ・デイジーが退治することでこの不幸な戦いの連鎖の日々に終止符を打つというのがフラワ・ダリアの目的だった。
 悪いのは自分だけ――フラワ・ダリアはその罪を一身に背負って消えるつもりになっている。
 だが、そんな事、フラワ・デイジーには出来ない。
 フラワ・デイジーは、元々、同族を殺すくらいなら自分が殺されようと思っていた。
 だが、そうはならなかった。
 フラワ・デイジーを殺そうとする同族は星の数ほどいたのに。
 何故、そうならなかったか?
 それは、フラワ・ダリアが代わりに相手をしていたからだ。
 汚れるのは自分だけで良い。
 そう思うからこそ、フラワ・ダリアはフラワ・デイジーのためだけに刺客達と戦い続けたのだ。
 いつしか最凶最悪のフラワ族と呼ばれながらも最期にはフラワ・デイジーの手にかかって殺されようと思っていた。
 それを知っているから、フラワ・デイジーもフラワ・ダリアもお互いを殺せない。
 だが、フラワ族には強力な呪いがかかっている。
 最後の一人になるまで戦わなければ、苦しみながら死んでしまうという呪いが。
 フラワ族は自分の意思では死ねない。
 だから、殺されなければならない。
 親友同士殺し合わなければ、共に滅びるしか道は無い――。

 それを知ったピリオドは絶望した。
 呪力が桁外れの【古都百合】であってもこの呪いは解けない。
 打つ手無しの絶望感が彼を苦しめていたのだ。
 それを聞いたキャリアは、
「――探そう。何かあるかも知れない。私の赤と緑の光体も亜万能細胞で出来ている。試してないだけで、何か取りこぼしがあるかも知れない。諦めるのは早い」
 と言った。
 ピリオドは、
「……ありがとう。【古都百合】様でもどうしようも無いのに、それでも諦めるなと言われても正直、どうしたら良いのかわからないが、確かに何かあるかも知れない」
 と言った。
 キャトラは、
「あちし達は、現界でクアンスティータっていう飛んでもないやつの誕生を感じてきたニャン。だから、大概の事では絶望しにゃいニャン」
 と付け足した。
 ピリオドは、
「クアンスティータって、まさか、あの与太話かい?前に聞いた話は本当の話だっていうのかい?」
 と聞き返した。
 どうやら前に説明した時の話は嘘の話と思われていたようだ。
 フォールは、
「与太話じゃない。実際に誕生してしまった。見てもいないが、想像していたより遙かにとんでもない化け物だった」
 と言った。
 それを聞いたピリオドは、
「ひゃぁ〜……驚いた。だって、あのクアンスティータだよ?」
 とまだ信じられないようだ。
 キャリアは、
「クアンスティータが誕生した時とその前のクアースリータが誕生した時、様々な存在が右往左往してパニックになっていた。私達はそれを肌で感じ取っていた」
 と二度と味わいたくないと言った表情を浮かべた。
 最悪でもクアンスティータに関わる何かを拾うことがもし出来るのであれば、フラワ族の呪いだろうが何だろうが消し飛ばせるのではないかというある意味、希望のようなものも見えた。
 キャリア達はこの時、気持ちが一つになった気がした。


続く。






登場キャラクター説明

001 キャリア・フロント・バック
キャリア・フロント・バック
 地球圏から光の星ルーメンと闇の星テネブライまで流れてきた天使であり悪魔でもある少女。
 偽クアンスティータを産み出し、新たなる姿へと変わっていった。
 天使と悪魔の翼とエンジェルハイロゥは消え、代わりに、背中からは帯状のものから結晶を産み出す突起物が生えるようになり、頭上には赤、青、黄、緑、オレンジの五色の光体を持つようになる。
 赤と緑はクアンスティータの背花変(はいかへん)の劣化版万能細胞、青は逆浄化、黄色は浄化、オレンジは探知能力を持っている光体。
 エナジードレイン、封印術など、細かい成長などもしている。



002 猫神 キャトラ
キャトラ
 キャリアに最初に仲間として認められた猫の女神。
 ちょっと臆病な性格で語尾に【にゃん】がつく。
 臆病な割には戦闘能力は結構ある。
 キャリアの絆玉(ボンドボール)の影響で、キャリアの成長は彼女にも影響する。
 キャリアによって、神の要素だけでなく、悪魔の要素も取り入れたり、体内ではめまぐるしい変化があるが、見た目は変わっていない。
 尻尾から玉を出し、その玉に敵を取り込み溶かすという新技を身につけている。


003 はぐれ使愚魔(しぐま) フォール
フォール
 正々堂々と戦う事からキャリアに仲間として認められた鬼。
 武器は金棒ではなく、特殊な闇の土で出来た刀、土刀(どとう)を駆使して戦う剣士タイプ。
 この土刀はフォールの邪気をすって様々な形に変化する。
 キャリアの絆玉(ボンドボール)の影響で、キャリアの成長は彼にも影響する。
 キャリアによって、悪魔の要素だけでなく、神の要素も取り入れたり、体内ではめまぐるしい変化があるが、見た目は変わっていない。







004 聖魔(せいま)ジャンル
ジャンル
 キャリアの悪魔の要素を持ったサボータと天使の要素を持ったセラフィールの要素を融合させて誕生させた聖魔(せいま)。
 前のキャリアの様に天使と悪魔の翼を持っている。
 普段は新生キャリアの耳飾りにメタモルフォーゼしている男性でもある。
 光と闇のエネルギーをショートさせる事で莫大なエネルギーを作り出せる。


















005 聖魔(せいま)マドゥワス
マドゥワス
 キャリアの悪魔の要素を持ったクルゥと天使の要素を持ったフクィンの要素を融合させて誕生させた聖魔(せいま)。
 前のキャリアの様に天使と悪魔の翼を持っている。
 普段は新生キャリアの耳飾りにメタモルフォーゼしている女性でもある。
 光と闇のエネルギーをショートさせる事で莫大なエネルギーを作り出せる。


















006 ピリオド・エンド
ピリオド・エンド
 キャリア達と行動を共にすることになる謎の男性。
 見世物の戦闘をして生計を立てているプロバトラーであり、カードの中に自身のしもべとして召喚する囚人達を閉じ込める【プリズン・カード】を得意とする。
 幽界最強の悪霊とされる【古都百合(ことゆり)】の息子、【古都蘭丸(ことらんまる)】の末裔であり、【古都百合】の娘、【古都薔薇(ことばら)】の子孫を探している。
 女性に対しては親切だが、男性軽視である。
 自分はジェントルマンだと思っている。
 少々キザな性格。









007 古都百合(ことゆり)
古都百合
 幽界(ゆうかい)最強の悪霊とされる霊。
 生前は2人の子供、【古都薔薇(ことばら)】と【古都蘭丸(ことらんまる)】を愛する心優しき美しい女性だった。
 夫には先立たれたが夫から、自身と子供達に特別な力を一つずつ受け取っている。
 悪霊となった時、幽界全土を巻き込む戦争を起こしており、敗れてなお、消滅させるに至らなかった彼女は封凶岩(ふうきょうがん)という岩に封じられて第六階層の宇宙空間に放置される。
 が、それでも数億光年にわたって影響力を持つため、そこは封鎖されるに至っていた。 幻霊族が、封凶岩を制御する技術を確立した事により、第二階層の宇宙空間に運ばれる事になる。





008 ゴッドマスター
ゴッドマスター
 冥界に居る【引きこもり】の一名。
 【引きこもり】とは自身が絶対の力を持つ異空間を持ち、その異空間に敵を引き込む事で戦うタイプの存在。
 ゴッドマスターはその中でも格下の存在。
 冥界の事情通でもある。
 ジャンル&マドゥワス組にへこまされる。
 元々名前は無かったが、自ら名乗る事にした。


009 れいあ
れいあ
 冥界の刺客。
 硬貨族(こうかぞく)の隊長クラス。
 硬貨族とは頭のコインが本体で肉体は大地のエネルギーを吸収する事でいくらでも作り出せる。
 コインは恐ろしく堅いがフォールが気合いを入れ直して切りつけたら真っ二つとなった。
 普段は小さな男の子の姿で近づいて来る。
 油断した冒険者達を男の子の皮を脱ぎ捨てどこに入っていたのかと思えるくらいの巨体で筋肉質の体を出し、襲うというスタイルを取っていた。


010 リーグ
リーグ
 冥界第一階層を支配するリビングデッド。
 生前、とある宇宙世界で最強の勇者と呼ばれた男。
 すでに無くなった宇宙世界で我が物顔で振る舞っていたが、いつしか【勇者】側から【倒される】側へと変わり、暗殺されたという過去を持つ。


















011 ドン
ドン
 冥界第一階層を支配するリビングデッド。
 生前、とある宇宙世界で、最強の組織のボスと呼ばれていた。
 別の名前があったようだが、いつしか自分の事を【ドン】と呼ばせる事に執着し、本当の名前も忘れた。
 やり過ぎたため、暗殺されている。


















012 セット
セット
 生前、とある宇宙世界で最強の怪物と呼ばれていた。
 雇われ用心棒を生業としていて、100%依頼者を守り切るという事を誇りとしていた。
 慢心し、油断をして刺客に殺されているという過去を持つ。



















013 フラワ・デイジー
フラワ・デイジー
 【古都百合】の娘、【古都薔薇】の子孫の一つ、フラワ族の一名。
 同族同士、殺し合う事を強要されているフラワ族の中でも戦いを良しとせず、殺される事を望んでいたが、最後の二名まで残ってしまった。


014 フラワ・ダリア
フラワ・ダリア
 【古都百合】の娘、【古都薔薇】の子孫の一つ、フラワ族の一名。
 同族同士、殺し合う事を強要されているフラワ族の中でも最凶最悪とされ、最も多くの同族殺しをしたが、それは全て親友のフラワ・デイジーのため。
 フラワ・デイジーに殺される事を望んでいる。